ひとおもい

主にゲームやアニメのレビューをしています。

Dr.STONE(アニメ版1期)

2020年アニメレビュー 1 

原始時代にテクノロジーで無双する科学アニメ。知は力なりとはよく言ったものよ。

 

dr-stone.jp

 

 

 

1.科学文明再興の物語

2000年代のある日、謎の光によって地球上のツバメと人類がみな石化してしまった。コンクリートや木造建築など人類の作ったものは軒並み風化して滅んだため世界中が原始時代に逆戻り。しかし3,700年後、白菜みたいな髪型をした科学オタク「千空」が石化から復活し、その正しく詳細な科学知識を武器に石化した人類全員の復活を夢見る。内容は以下のように第1章と第2章に分かれている。

第1章

千空と、千空から半年遅れて石化から復活した親友の大樹は実験の末にナイタール液を作り、大樹の想い人である杠(ゆずりは)を石化から復活させる。また霊長類最強の高校生と言われる獅子王 司も復活させ一時は協力関係を築くが、人類全員の復活を目指す千空と選ばれた人類だけの復活を目指す司は対立し、千空は箱根の地で司に殺されてしまう。だが千空は「石化から復活する時は身体が修復される」という石化の性質を利用して再び復活し、大樹と杠を「司帝国」に残したまま自身は「科学王国」を作って対抗することを誓う。

第2章

千空はストーンワールドで生きた人間が暮らす一つの村を見つける。千空は科学の知識を使った猫じゃらしラーメンなどで村人と仲良くなり、村長の娘で巫女の「ルリ」の肺炎を治すために磁石→電気→鉄と科学技術も順に発展させて石の抗生物質「サルファ剤」を作り、なんやかんやで村長を決める武術大会でも優勝してしまう。武術大会は別に千空が強いんじゃなくて周りが頑張ったんだけど。

優勝の副賞は、村の巫女が代々語り継いでいる「百物語」の最後の一つ「石神千空」の内容だった。村の名前は石神村。千空の名字は石神。なんと、石神村は千空の育ての父で宇宙飛行士の「石神百夜」が創った村であることが明かされる。百夜は石化の日に宇宙ステーションにいたため石化から逃れ、同僚の宇宙飛行士5名とともに地上に降りて石神村を作ったのだった。

そうこうしていると司帝国から再び千空を殺すための刺客が送られてくるが、千空はこれを撃退。そして来たるべき司帝国との全面戦争で情報面の優位に立つため携帯電話(トランシーバー)を作ることにする。ほとんど採取狩猟生活を送っている石神村の設備で携帯電話なんかできるのか? と思っていたら、科学使いとして成長した「クロム」と手先の器用な老技術者「カセキ」を中心とした石神村の総力で携帯電話を完成させ、千空は名実ともに石神村のリーダーとなり、村の結束も最大限に高まった。

そしてこれから司帝国との戦争だ! というめちゃくちゃ良いところで終わる。2期決定済み。

 

 

2.科学描写のリアリティと願望を満たす気持ちよさ

パッと見た感じでは「原始時代で科学技術を使える俺TUEEEEE」で異世界転生のバリエーションのようにも思えるが、本作はそれらと明確に一線を画する。

このアニメの第一の特徴は、使われている科学技術の描写が詳細で、かつ現実味があることだ。利用するのはあくまでそこにある自然物。確かにアニメ終盤でタングステンが取れる洞窟が出てきたりするのは若干都合良くできている気もするが、基本的に「魔法」が使われることはなく、千空たちは地道に一つずつ課題をクリアしてゆく。科学技術の正確さも、毎週番組が終わった後に「このアニメに出てくるとおりにやれば同じ結果が得られるが危険だからやめろ」という旨の警告が表示されるほど。

また千空のキャラクターも主人公として好感を持てる造形をしている。博物学から始まって電気、化学、天文学と科学のカテゴリに入るものなら何でも詳しく知っており、頭の回転も当然早い。口は悪いがハートは熱く、合理的な思考に粘り強い意思と人並み以上の倫理観を併せ持つ。石神村の人心を掌握できたのは千空の実績と人柄のたまものと言って良い。その他のキャラクターも敵役含めてみんなエネルギーに溢れていて魅力的。

もう少し根本的なところでいくと、このアニメは基本的に男の子って実験とか科学とか好きでしょ? 白衣とか着てカッコつけてみんなを驚かせてみたいでしょ? という欲望を完全に満たしてくれる。これで気持ちよくないはずがない!

ゼロから文明を再興する物語もどこかCivilizationという原始時代から文明を発展させていくゲームに似ていて、やはり何かを改善していくのは人間の根本に突き刺さるんだなあと。なお同じコンセプトの書籍に「ゼロからトースターを作ってみた結果」などがある。

ken-horimoto.com


他の作品で例えるなら、未来に漂流してしまうロビンソン・クルーソー、どちらかと言えば千空が一人でハーバートとサイラス大尉の役割をこなす神秘島物語と言った方が近い。神秘島物語もハーバートがいないと詰んでるところあるし。Dr.STONEでは工業を重点的に発展させて農業は全然やらないので、そのあたりも似ている。

 

 

3.石神村で考える「30代前の先祖は10億人のパラドックス

「30代前の先祖は10億人のパラドックス」とは

突然だが、あなたに生物学上の親は何人いるだろうか。よほど特殊な生い立ちでもない限り、1人の人間には2人の親がいる。では祖父母は何人だろうか。父方の祖父母と母方の祖父母を合わせると4人になる。曽祖父母はそれぞれの祖父母に2人ずつ親がいるから4✕2=8人だ。

このように一人の人間から一代ずつさかのぼっていくと、代の数だけ2を累乗した人数の先祖がいることになる。具体的には、1代さかのぼれば2^1=2人の先祖、2代さかのぼれば2^2=4人の先祖、3代さかのぼれば2^3=8人の先祖がいる。

では30代さかのぼればどうなるか。2の30乗なので、2^30=1,073,741,824人の先祖がいる。なんと10億人を超えてしまった。ちなみに31代さかのぼると、2^31=2,147,483,648‬なので20億人の先祖がいることになる。

この計算は直感に反する。1代を30年と見積もるなら30代前は30✕30=900年前になる。2020年の900年前は1120年だから、だいたい平安時代の後期だろう。日本の人口は現在でもせいぜい1.2億人なのに平安時代に10億人もいるわけがない。だが計算上10億人の祖先がいなければ、あなたは生まれていない。これが「30代前の先祖は10億人のパラドックス」である。

パラドックスの解決

石神百夜が降り立って以来3,700年も存続している石神村でこのパラドックスを考えてみよう。3,700年と言えば1代30年で計算すれば123代である。2^123は37桁だから、ルリ達から見て123代前の祖先は兆・京・垓・ジョ・穣・溝を越えて「澗」の人数がいなければならない。しかし石神村は6人の宇宙飛行士から始まった村だ。この差は一体何だろうか。

より話を簡単にするため、石神村が二組の男女、合計4名から始まったと考えよう。これを第0世代と呼ぶことにする。この第0世代がそれぞれ2名の男女、合計4名の子供を産むとして、この第0世代から産まれた4名を第1世代とする。

時が経ち、第1世代が子供を産める年齢まで成長した。このときの配偶は、兄妹(姉弟)のカップリングを避け、いとこ同士とすることができる。いとこ同士の結婚は現代の法律でも禁じられていない。イイネ?

無事に第1世代のいとこ同士カップルが成長して子供を産み、第2世代が誕生。第2世代となる子供も男女2名ずつの合計4人が産まれるとする。そして第2世代も第1世代と同様、いとこ同士でカップリングすることができるので、第3世代を男女2名ずつ、合計4人産むことができる。

ここで一旦立ち止まり、第3世代の立場から第0世代を見てみよう。第0世代は第3世代の3代前の先祖だから、先の計算によれば第0世代は2^3=8人いなければならない。だが最初に置いた第0世代は「4人」だった。更に世代を進めて第3世代から第4世代が産まれても、先の一般的な計算では4代前の祖先は2^4=16人いるはずだが、実際の第0世代は「4人」で変わらない。

このシミュレーションで分かる通り、代をいくつ重ねようとも先祖の人数は増えない。「30代前の先祖は10億人のパラドックス」が起きる原因は「今を生きる自分」から数え始めたためであり、「30代前に生きていた先祖」から考え始めればパラドックスを起こさずに現代まで到達できる。

さらに言えば、パラドックスが起こるもう一つの理由は「共通の先祖」の存在を無視しているからだ。現代でもいとこ同士で結婚した場合、「いとこ同士の子供」から見た曽祖父母は全部で6人しかいない。「3代さかのぼれば2^3=8人の先祖がいる」という計算が常に成り立つわけではないというのがポイント。

このように、6人の宇宙飛行士から石神村を3,700年続けることは、遺伝的リスクを無視すれば理論上可能である。

少子化の恐怖

さて、先の石神村シミュレーションは以下の4つの前提を置いている。

①男2名、女2名の4人からスタート
②女性の合計特殊出生率は2.0
③女性は必ず男1名、女1名を出産
④男女ともに生殖・子育てできる年齢まで健康

賢明な読者諸兄は既にお気づきだろうが、このシミュレーションは人間がコントロールできない要素にめっぽう弱い。③については性別が男ばかりになってしまった時点でアウトだし、④についても事故や病気が発生すれば、それだけで種が絶えてしまう。

①は所与の条件として、コントロールできるのは②の合計特殊出生率である。仮にこれを2.0から4.0まで引き上げられるなら男女の偏りや死亡リスクは大きくヘッジできるだろう。また4.0のときに全員が成長して子供を産めるようになったなら、その子供たちがまた4.0で子供を産むので、それこそネズミ算のように人口が増えていく。

では2.0から1.0になったらどうか。このとき第1世代は2名しか産まれない。仮に第1世代が男女で産まれてきたとしても、合計特殊出生率1.0によりその子供は1人しかいないので、石神村は第2世代で終わる。

人間は2人で子供を作るので、子供は少なくとも2人産まなければ人口を維持できない。さらに石神村シミュレーションで見たように、合計特殊出生率が2.0を切った状態とは将来の絶滅すら内包する危機である。いわゆる「人口ボーナス期」が終わった後の「人口オーナス期」は永遠に継続すると言われているが、石神村シミュレーションからもその恐ろしさの一端がわかるだろう。なお、2018年の日本の合計特殊出生率は1.42だそうだ。